いつものように
なんて食いしん坊な人!
無菌室で、震える字で書いてくれた手紙には、
「鴨が食べたい!」と書いてあった。
筆圧が弱くて震える文字の中には、誰よりも強い
溢れるような生命の力があった。
あなたって人は、もう、食いしん坊なんだから!
奇跡の復活を遂げたあなたは、笑顔でドアを開けて、
ご主人と一緒にうちのフルコースを食べてくれた。
料理のひとつひとつ、真剣に噛みしめて味わってくれて、
お皿を下げに行くと「これ!すんごい美味しかった!」と
あまりにも熱心な賛辞を送ってくれるから、なんだか
居ても立っても居られないくらい照れくさかったなぁ。
これからもずっとあなたに噛みしめられる店でいよう!
あなたがもりもり食べて、呑んで、生きていることに
嬉しさがこみ上げて、こっちが励まされてきたんですよ。
ああ、ちくしょう。
あなたを絶対に渡さないと誓ったのになぁ!
もっともっと美味しい思いをさせたかったのになぁ!
どこに行ったの?食いしん坊さん。
綾子さん、あなたの好きな青首鴨がきたよ。
食べなくていいの?
沢山の愛する人達とお花に囲まれたあなたに問いかけた。
でも、最後のあなたの顔は、本当に美しかった。
やりきったんだね。頑張ったものね。
誇らしげな顔を見たら、あなたを手放す覚悟が出来た。
最近、あなたの親戚やお友達からよく予約が入るんです。
あなたって人は、守護神になっても忙しそうですねぇ。
未だにクルルの営業部長してくれてるなんて!
綾子さん、会いたいよ。
お腹が空いたら食べに来てね。いつものように。
いつものように「マダム、ワインの相談していい?」って、
言ってね。いつものように、帰る時に手をぎゅっと握ってね。
クルルの「食いしん坊大賞」は、ずっと、あなただけです。